DVDを借りてTSUTAYAから出てきて自転車のチェーンを外してライトをポケットから取りだして付けた後、スタンドを起こして後ろを確認すると、十代のカップルが通り過ぎるところだったので少し待った。
彼らが通り過ぎた後、細くて人通りの多い道なので自転車を押してその後に続くと、カップルの男の方が女の方に何事かささやき、笑っているのが見えた。もう少し進むと、まず男の方が後ろをふり返り、女の方も後ろを振り向いた。
ヤレヤレと思いつつ、そのまま進んでいくと、男の方がもう一度ふり向いて、わきの道にそれて行った。
「笑われてたね。」
いつのまにか近くに来ていた彼女が言った。
「そんなバカな。」ぼくは少し薄い笑い声でそう答えたが、内心はヤレヤレと思っていた。
——
金曜の夜は彼女がやって来る。それは、僕がつくるカレーとサラダのためではあるまい?いや理由はわからないのだが、彼女はこの2ヵ月ほど、ほぼ毎週のようにやってくる。
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エレベータのないマンションの5階まで階段であがる。
僕は彼女の買ってきた食材のレジ袋を抱えて。
彼女はカツカツと軽快な足音を立てて。
玄関に入ると、まず食材を片付けて、夕食の準備にとりかかる。
だいたいいつもカレーだが、何をつくるかは、彼女が買ってくる食材次第だ。
そして、彼女は先にいそいそと風呂を沸かし、僕が調理している間にゆっくと湯船につかる。
文明の力で音楽でも流しているのだろう、いつもラジオや音楽なんかの音が台所まで聞こえてくる。
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仕込みが完了すると、僕は彼女と入れ替わりに風呂に入る。(いつも花の匂いの入浴剤が入っている)
そして、風呂からあがると、二人で食事をする。
僕の借りてきたDVDを見ながら。
あんまり話はしない。
時おり、彼女が女優や俳優へ向けるつっこみに相づちをうつだけだ。
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だいたいいつも、食事が終わると、ナッツなんかを食べながら晩酌が始まる。そのタイミングで彼女が僕の腕の中に入って来る。
だけど、やっぱり会話はしない。ただただ映画を見続けている。
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そして映画が終わると、(完全に酔っぱらうと)狭いシングルベッドを彼女に明け渡し、僕はと言えば、床にゴロリと横になって、オナサケでもらう毛布で寝るのだった。
―2020/05/15 金