電車に座っていると、目の前を、サラリーマンの男性が、
通り過ぎた。
先程、駅で乗り込んできた人が、前の方の車両に移動
しているのだ。
今日は夕刊を買い忘れたので、向かいの窓から外を見る。
と言っても、外は真っ暗で、自分の姿が、ガラスに反射して、
映っているのを眺めるだけだ。
電車はスピードを落とし始め、車掌さんが、次の駅の
アナウンスを始めた。
右斜め前に座っていた女性が席を立った。どうやら、この駅で
降りるらしい。スマホの画面を見つめたままだ。
僕は、ふと彼女が立った席に、手袋が片方だけ残っている
ことに気が付いた。もう電車は駅に着き、間もなく扉が
聞きそうだ。僕は舌打ちしたい気持ちになった。
いつもそうだ。周りを見ると、皆、スマホや、新聞に見入って
いて、こんなことに気付きやしない。こういうのは、最初に気付
いたやつの負けなのだ。僕は、素早く、席を立ち、向かいの
席の手袋を手に取り、スマホを見つめて、扉の前に立って
いる女性の肩をたたいた。
―1/8(金)