三題噺「電車・冬・女性」

電車に座っていると、目の前を、サラリーマンの男性が、

通り過ぎた。

先程、駅で乗り込んできた人が、前の方の車両に移動

しているのだ。

今日は夕刊を買い忘れたので、向かいの窓から外を見る。

と言っても、外は真っ暗で、自分の姿が、ガラスに反射して、

映っているのを眺めるだけだ。

電車はスピードを落とし始め、車掌さんが、次の駅の

アナウンスを始めた。

右斜め前に座っていた女性が席を立った。どうやら、この駅で

降りるらしい。スマホの画面を見つめたままだ。

僕は、ふと彼女が立った席に、手袋が片方だけ残っている

ことに気が付いた。もう電車は駅に着き、間もなく扉が

聞きそうだ。僕は舌打ちしたい気持ちになった。

いつもそうだ。周りを見ると、皆、スマホや、新聞に見入って

いて、こんなことに気付きやしない。こういうのは、最初に気付

いたやつの負けなのだ。僕は、素早く、席を立ち、向かいの

席の手袋を手に取り、スマホを見つめて、扉の前に立って

いる女性の肩をたたいた。

―1/8(金)

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