混み合った店内で、朝から、居座っていた僕は、
一人、机の上の原稿用紙に文字を書き込んでいた。
「ここ、空いてるかしら?」
と女の人の声がした。
顔を上げると、小さい鼻の美人が立っていた。 いつかの彼女だった。
「どうぞ?」 と言って 僕はコーヒーを一口すすった。
「ありがとう。」 と言って彼女は、僕の目の前の席に腰を下ろした。
「何書いてるの?」
僕は右手にボールペンを握ったままだった。
しかし、僕は前の事があったから、 何も答えずに彼女の目を探る様に
見た。
彼女は「どうしたの?」 とでも言いたげにこっちを見返している。 本当に
覚えていない様な。
「あの、 前もそう聞きましたよね」
「ん?」
「いや、」 彼女の時間つぶしの相手をするのは正直ごめんだった。
だから、僕は、それ以上何も言わずに、 また原稿用紙を埋める作業に
取りかかった。
二十分くらいして、 ふと、僕が思い出して、顔を上げると
彼女は僕の手元を見つめたままカフェラテを飲んでいた ―10/14(火)