五月の大学生

 大学の図書館は何のためにあるのだろう?
 大勢の人は「本を読む、借りる、もしくは調べ物をするため」と答えるだろう。しかし、僕の場合は「時間を潰すため」だ。
 友人もおらず、部活動にも参加せず、かといって今更サークルやなんかに所属するのも面倒だ。そんなこんなでバイトもしていない大学生の僕は家に帰っても親に煙たい顔をされるだけなので、毎日、夜8時頃まで図書館で時間を潰してから家に帰る、なんて生活を今年の4月から繰り返していた。
 もちろん、ただボーっとするだけじゃない。その日出たレポートやなんかをやる時もある。しかし、そういったレポートが毎日出る訳じゃない。そんな時は本を読んで時間をつぶすが、もっぱら工学系の本しか置いていないので、本を探すときは書庫まで足を延ばすことになる。
 不思議な話だが、僕はめったにこの書庫で人にあったことがない。それだけに、ややひんやりとした、無音の書庫では非現実的なそこだけ隔離された空間であるかのような、落ち着かない気持ちになる。
 書庫ではまず、文庫のコーナーに向かう。割とメジャーなタイトルが眠っていたりしてあなどれないのだ。少しの間物色した後、気が向けば、児童書のコーナーへ向かう。そうしてから、人のざわめきが聞こえる1F、つまり開架のフロアに戻ってくるのだ。
 そんなある日、僕は初めて図書館の受付に足を運んだ。
 「すみません。落し物で、腕時計なんかありませんでした?」
 「えーっと・・・。」
 受付の男の人が探している間、ふと、カウンターのちらしに目が行った。
 “本好きの 本好きによる 本好きのための飲み会!!“
 
 「あ、良かったらどうぞ。なんかね、「企画サークル」の人が開催するらしいよ。」
 と受付の男性(三回生くらい?)はなぜかニヤッとしながら、その「お知らせ」のチラシを一枚僕に手渡した。
 「どうも、それで腕時計は?・・・」
 「ああ、これかい?」
 とその人が取り出したのは明らかに女性ものの、赤い腕時計だった。
 「これかい?」
 学生課で同じ様に尋ねたら、黒い腕時計が出てきた。僕のだった。
 礼を言って学生課を出ようとしたら、女の同学年っぽい人がやってきて、「腕時計の落し物ありませんでしたか?」と尋ねているのが聞こえた。僕は普段めったに自分から異性に話しかけることはしないが、その時は割とすんなり、「もしかしたら図書館にあるかもしれませんよ」とフランクに話しかけてしまっていた。
 三限目というのは集中力が落ちるものだ。そしてなぜか、皆のおしゃべりのテンションが上がるのもこの時間帯であることが多い。だから僕もなんとなく、友人の安藤君に近々、図書館で飲み会があるらしいよなどと軽く話していた。
 「え?!もちろん行くよな!?」
 と彼は講義中にしてはやや大きな声で言った。
 「何で?いや、別に行ってもいいかなとは思ってるけど。」
 前を向いたまま言ったのに、安藤君はわざわざこっちを向いて、
 「いやお前、だって図書館のコンパって言ったら、絶対に当たりだろ!」
 と言う。講義後に詳しく聞いてみると、彼曰く、図書館に来る様な女子は絶対に性格が良い子が多いらしい。「なぁるほどな」と思った僕は、試しにその飲み会に参加したのだった。
 「もしかしたら来るかと思ったよ」
 と、目の前に座っているのはあの受付の男性だった。
 「いや、というかね、この企画出したの僕だからさ。」
 もう一つのテーブルを見てみると、結局企画サークルの人しかいないテーブルでも安藤君は楽しそうにしていた。
 「いや、結局ね、今回参加してくれたのは君達三人だけだよ。」
 と言って目の前の大森さんは僕とあの腕時計の彼女を見た。どうやら彼女も、チラシを貰っていたらしい。
 新入生で飲み代がタダということもあり、隣に女性が居ることもあり、僕はややハイペースで飲み、うだうだした今の状況のこととかをその場で話してしまった。すると、大森さんが「良かったら、企画サークル入れば?」なんて言ってくれ、「ぜひ入ります」なんて言ってしまった。
 あの飲み会が僕みたいに一人ぼっちで図書館にかよう新入生をターゲットにしていたのかは知らないが、結果的に僕は企画サークルでその後の大学生活を過ごすことになった。
―5/19(月)

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