三題噺「空港の取材」「待合室」「日曜日」

「それと、あと一つは勇気です。」
とその少年は言った。
「勇気?」
「そう、あと一つは勇気。
 今のあなたに足りないものです。」
「私に足りないのは・・・
 きちんとした静寂だよ。言わせてもらえればね。
 あとは十分な休息だと思うな。」
 痩せぎすの顔の彫が深い男がそう言った。
「静寂、ですか?」
「そう。静寂さ。
 つまりね。僕はどうやら、ひどく敏感なたちみたいなんだな。
 上の階の、隣の住人の生活音が気になって、仕方がないんだよ。
 それでね。イライラしてる時なんかはそのせいで発狂しそうになるほどなのさ。」
「ひどく、やっかいなたちなんですね。」
「そうさ。」

 隣に座ったまま二人は話していた。
 ここは空港の待ち合いのロビーだ。
 いつも通り、手持無沙汰で、待ち時間を過ごしていると、隣に座っていた少年が、話しかけてきたのだ。
「君、時々こんな気持ちにならないか、例えば、場所を選ばず横になりたくなったり、頭の中がひどく凝り固まっている様な。」
「僕はね、ここんとこ毎日そんな感じなんだよ。だから今回ハワイにでも行って、少しばかり安静に眠ろうと思ってんだな。これが。」
 男は少年の目も見ずにつらつらとそんなことをしゃべった。
 少年はそんなこと考えたこともなかったし、想像したこともなかった。
「それは精神的なところに問題があるからだと思いますか?それとも肉体的なところ?」
 少年も真直ぐ、前を向いたまま話した。
 トランクを入れるカートがごろごろと目の前を通過して行った。

 そろそろ呼ばれるかと、男はちらと時計に目をやった後、やはり前を向いたまま口を開いた。
「それはわからんね。ただ、この問題は、何か一つを少しでも変えると解決する様にも思えるし、ひどくやっかいで根本的なものかもしれんな。」
「例えば、何か一つって何です?」
「そうだな、例えば、毎朝寝起きに水を一杯飲むだとか、10時以降は風呂に入らないとか、寝る向きを逆にしてみるとか、そんなことだな。」

「君はまだ年齢が少ないからわからないかもしれんが、毎日というものはそういう小さな一つ一つの動作で作られているものなんだよ。
 そしてそれで構築されているのが自分って訳さ。」

 すると男は受け付けまで歩いて行き、今度のフライトをキャンセルする様伝えた。
「実はハワイに行く気なんて無かったのさ」
「今気付いたんだけれども」
 戻ってくるなり男は言った。今度は男の目を少し見て。

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