「あなたに興味があるんです。」
気になる人に、ついに話しかけてみた。
彼女、「はあ。」と返した。「そうなんですか」とちょっと引き気味に。
僕はその時点で悟った。話かけんじゃなかったと。
「それで・・・」と用意していた台詞を言おうかと思ったが、
彼女がわざとらしく、自分の腕時計を何度も見ている姿を
見て、僕は、もう止めようと思った。
「あの、やっぱり良いです。忘れてください。話しかけてすみません
でした。」
とそれだけ矢継早に言った。
「じゃあ、また」またなんて二度と無いけど、と思いつつその
場を去った。
現実とはこんなもんだ。なんとなくわかっていたが。
けりをつけたかったのだ。
しばらく足が震えていたが、何も無かったかの様に席に
戻って、何も無かったかの様に帰った。何も無かったと
思い込みながら。
前の彼女と別れてから、現実は自分の都合通りに
は行かないと思い知らされていた。
バッドエンドになることも、あるさ。
その男は、いつも通り、苦しまぎれの歌を唄いながら
帰ったのだった。―10/25(日)