黒いスーツの老人が僕の前に座っていた。
なにやらぶ厚い辞書の様なものをめくっている。 パラパラ と紙をくる音が聞こえる。
「さて、」 と老人は言った。 「お前の行く先を決めようか」
「お前はこれまで特に悪いことはしていない。 ふむ。」 パラリ
「付き合った女性に依存するクセがある。 まあ、これはほとんどの男に当て
はまるだろう。 ふむ。」 パラリ そうしてその老人は僕の
これまでのことをいくつか並べていった。
「お前、なぜ死のうとなんてしたんだ?」 老人にしては張りのある声で
彼は言った。 「なぜ?」
何か、 面接みたいだなと僕は思った。 下らないと。 しかも、いつのまに
この部屋に来たのか、さっきから、一向に思い出せない僕は少しつっけんどん
に言った。 「あなた、失礼ですがどなたですか? もう帰っていいですか?」
そして、僕は席を立って、老人の左奥に見えていた、この部屋唯一のドアに
向かった。 ドアノブを回したところで男が声をかけてきた「お前。 しょうが
ないから、 もう一度やってみなさい。 もう来るんじゃないぞ」少し優しげな
声だった。
ドアを開けたところで目が覚めた。 ひどく重く、どんよりとした空気だった。
風のせいか、閉めていた窓が全開になっていた。机の上の練炭はとっくに消えて
いたらしい。 僕は重い頭のまま、しばらくぼんやりと天井を見上げていた。
―10/15(水)