机に座った男は時計の針を見つめていた。
その店には、ジャズと、お香の匂いが立ち込め、五時の薄暗さを更に
薄暗くした様な雰囲気だった。
カラン。 音がして、一人の男と女が店に入ってきた。
五時だった。
バーテンダー兼店主の男は磨いていたグラスを止め、
面倒臭そうに、新しい客を見つめた。
「っしゃい。 何にします?」
男と女は無言で、店内を見渡し、僕のテーブルに目を止めると、
女の方が「コーヒーを2つちょうだい」と言って、こちらに歩いて来た。
「よお。」
目の前に座る男女に声をかけた。
すぐにタバコを取り出した男は火を付け、一本、口にくわえた。
僕はコーヒーを一杯口に含んで、間をつくった。
「それで?」 女の方が口を開いた。
バーテンダーが、コーヒーを持って来た。
男はサングラスを外して、僕の目を見た。 いや、強く見た。
「俺の財布を拾ったって言うから来たんだぞ。」
僕は右ポケットから 男物の財布を出して机に置いた。
―10/20(月)